空調のきいた今の時代、あんみつに季節はありません。
東京・銀座に行ったら、ぜひ訪れていただきたいのが、若松さん。
みつ豆から、あんみつを考案した老舗です。
あんみつという和菓子には、何とも言えない、わくわく感があると思いませんか。
きれいなフルーツと、甘い求肥(求肥)。
寒天ののど越しの良さと、蜜に溶けたあんこの甘さが、口の中で、混然一体となる楽しさ。。
さらに、アイスクリームや白玉をトッピングすることもできます。
この楽しさが、食べる人の心をほぐしてくれるのでしょう。
和食が、ユネスコの無形文化遺産に登録されてから、世界の和食に対する注目度は上がる一方です。
見た目にも楽しく、パフェのような感覚で楽しめるわがし、あんみつは、これから和スィーツの領域で、さらに発展していくのではないでしょうか。
なにしろ、主材料の寒天には、とてもうれしい健康効果もあるのです。
ヘルシーで、食べる人の心もほぐしてくれるあんみつは、和菓子を語る時、外すことのできないアイテムだと思われます。
今回は、そんなあんみつの歴史と、寒天について、勉強してみたいと思います。
目次
あんみつの先祖は「みつまめ」
あんみつは、みつまめに、あんを足したものです。明治時代に考案されました。
では、あんみつの先祖である、蜜豆(みつまめ)はいつから作られているのでしょうか。
密豆の歴史は、江戸時代のおわりころにさかのぼります。
この頃、18世紀末から19世紀初めにかけては、全国でも、和菓子の店が急激に増えた時期です。
砂糖は、確かに、現在に比べれば大変なぜいたく品ではありました。
しかし、一般の庶民も、日常、時にはお菓子を口にすることができるものになっていたのです。
特に、世界でも大都市のひとつに成長していた、江戸。
そこでは、大福もちをはじめ、さまざまな日常の菓子が発達していました。
その中に、あんみつもあったのです。
江戸時代の蜜豆
最初のみつ豆には、寒天が使われていませんでした。
寒天の代わりに、上新粉からつくる、新粉細工が使われていたのです。
新粉細工は、うるち米から作る上新粉を使います。
上新粉を蒸して餅にし、さまざまな動物などの形を作ったお菓子です。
とくに細工のない場合は、上新餅といいます。
この新粉細工または、上新餅に赤えんどう豆をあわせ、砂糖から作った蜜をかけたものが、みつ豆でした。
蜜には、黒蜜と白蜜があります。
どちらが高級であったと思われますか。
江戸時代には、白砂糖のほうが、黒砂糖よりも、かなり高価だったのです。
将軍吉宗公が、18世紀には、全国でサトウキビの栽培を奨励しました。
そのため、日本全国には、黒砂糖はかなり広がりました。
けれども、白砂糖のほうは輸入品がほとんどで、非常に高価だったのです。
現代では、逆に、有機栽培の専門店で購入すると、むしろ黒砂糖の値段のほうが高い場合もあるくらいです。
しかし、みつ豆が江戸時代にできたころは、明らかに黒蜜のほうが安価でした。
ですから、最初のみつまめは、新粉細工と赤えんどう豆に、黒蜜をかけたものであったはずです。
明治時代のあんみつ
舟和の高級みつ豆
明治36年、1903年には、東京浅草の和菓子屋、舟和が、みつ豆ホールを作りました。(舟和ホームページより)
これは、当時流行だった、ミルクホールの向こうを張ったものです。
ちなみに、ミルクホールとは、19世紀末にビアホールが東京にできたころに、主に学生街にできました。
ビールの代わりに、ハイカラなソフトドリンクであった牛乳を飲ませるところでした。
ミルクホールは、後の喫茶店の原点でもあります。
20世紀に入って、発祥したあんみつホール。
あんみつホールは、現代のスィーツのお店の原点ともいえます。
たしかに、当時のあんみつは、今のスィーツにあたるような、ハイカラな流行のお菓子でした。
舟和のみつ豆は、銀の器にフルーツと寒天、牛皮と赤えんどう豆を盛りあわせたものです。
白蜜と黒蜜を選ぶことができ、銀の匙で食べました。
衛生的で、高級感あふれるお菓子として、売り出されたのです。
現在でも、舟和本店で賞味することができます。
ただし、それよりも安価な庶民のみつ豆は、駄菓子屋や屋台でも、提供されていました。
銀座・若松のあんみつ
明治27年創業の若松さんは、もともとお汁粉屋さんでした。
二代目のご主人、森半次郎さんが、昭和5年(1930年)にあんみつを考案したのです。
お汁粉屋さんであったことから、早炊きの口当たりのよい、のど越しの良い、あんこが特徴です。
フルーツと寒天や赤えんどう豆だけではなく、求肥(ぎゅうひ)や羊羹(ようかん)も飾られています。
あんみつは、発売されるや、あっという間に大評判になりました。
あんみつの広まり
昭和13年(1938年)には、銀座の蜜豆店「月ヶ瀬」のあんみつも有名になりました。
プロレタリア文学者の橋本夢道が創業に参画し、非常にキャッチ―な宣伝文句を考えたのです。
たとえば、「みつまめをギリシャの神は知らざりき」「君知るやこのみつまめの伝説を」。
こういった文句を電通に依頼してポスターにし、市電や電車の中づり広告としたのです。
これを見ても、あんみつが新しい時代のお菓子であったことがよくわかります。
近代的な広告によって、あんみつは、さらに有名になりました。
その後、白玉を入れた白玉あんみつや、アイスクリームを加えた、白玉クリームあんみつなど、さまざまなバリエーションが生まれたのでした。
あんみつに欠かせない寒天
明治に入ってからのみつ豆や、あんみつに欠かせなくなった寒天。
寒天とは、ところてんを干したものです。
寒天の歴史を見るために、まずは、ところてんの歴史を見てまいりましょう。
ところてん
ところてんは、漢字では心太と書きます。
心太は、遣唐使が日本に伝えたといわれています。
正倉院文書には、ところてんの記載があり、東大寺で写経をする人々に、支給されていました。
平安時代には、都の市で売られており、18世紀には、都の人々に身近な食べ物になっていました。
海藻のテングサを干して、煮溶かしたものが心太で、室町時代には、現在のような心太付きの道具もできていました。
寒天の発祥
さて、江戸時代に入って、17世紀後半の徳川家綱公の時代に、ひょんなことから、寒天が発明されました。
山城国伏見(現在の京都府伏見)の本陣で、島津のお殿様に出した心太が、翌朝、凍ってしまったのです。
それは、まるで干物のようになっていました。
もったいないので、この干物をもう一度、煮溶かしてみたところ、ところてん特有の海臭いにおいが抜けていることに気づいたのです。
こうして、寒天を干して煮溶かす作業を入れることで、磯臭さが抜けることが発見されたのです。
そして、天日にさらすことで、漂泊もされたのでした。
寒天が普及するにあたっては、精進料理で有名な、隠元禅師の力がありました。
隠元禅師は、中国の明の末期に日本に移住した禅僧です。
和菓子にも使う、インゲン豆を伝えた方です。
さて、寒天ですが、まずは、北摂津に(現大阪府)に寒天製造組合ができました。
の後、18世紀には、長野の諏訪地方にも、製法が広まったのです。
当時から、寒天は、テングサを煮溶かして、寒中の冷気にさらして寒天を作る製法が行われていました。
冬の間の農家の内職と賃仕事として、製造が広まっていったのです。
なお、製菓(竿物菓子さおものがし)に使われたのは、18世紀になってからです。
そして、現在のような、練り羊羹が作られるのも、江戸も後期の1872年になってからです。
しかし、ところてんは、江戸時代もよく食べられた菓子ですし、寒天もその上等なものとして、料理や製菓に使われるようになりました。
なお、関東では、ところてんを酢醤油で食べますが、関西では、黒蜜など甘みとして食べることが一般的です。
寒天の種類
寒天には、次のような種類があります。
・角寒天(棒状の物)家庭用
・糸寒天(糸状のもの)和菓子用
・フレーク寒天 高級菓子用
・粉寒天
第二次世界大戦が勃発するまで、寒天は日本の重要な輸出品でした。
医学で、細菌の培養に使ったからです。
しかし、戦争で輸出が禁止されると、欧米では工場で海藻を漂泊して、工業的に寒天を作る技術を開発しました。
そうして粉寒天ができたのです。
現在では、家庭でも、裏ごしの不要な、手軽な粉寒天を利用するようになっています。
ただし、風味という点では、天然物の、角寒天・糸寒天・フレーク寒天などにはかないません。
現在も、和菓子には、工業製品の粉寒天ではなく、天然の寒天を使うのです。
寒天の健康効果
寒天には、カロリーがなく、海藻由来の食物繊維が豊富であることから、さまざまな健康効果があることが分かっています。
食物繊維は、食べ物の吸収速度を下げるため、血糖値の上昇を抑えます。
また、胆汁の再吸収を妨げるので、脂肪の吸収を抑えます。
さらに、コレステロールを吸収することもわかっています。
ところで、寒天の食物繊維含有量は82パーセント以上と、食品の中で第1位ですから、これらの作用が期待できるのです。
また、宝酒造は、抗炎症作用のあるオリゴ糖、アガロオリゴ糖を寒天の材料から抽出することに成功しました。
寒天には、ヘルシーな効用があるのですね。
デザートとしてのあんみつ
私たち日本人は、和菓子を食後のデザートとしてとらえることは少ないかもしれません。
しかし、2013年に、ユネスコの無形文化遺産に和食が登録されてから、和菓子も含めた日本のヘルシーな食習慣は、世界中で注目されています。
あんみつも、和スィーツのひとつとして、これからも注目度が上がっていくことでしょう。
今回は、あんみつのレシピまではご紹介しません。
しかし、材料さえそろえれば、意外に簡単に、家庭でもあんみつは手作りができます。
添加物のない、老舗の味に負けないあんみつを、ご家庭でも作ってみてはいかがでしょうか。