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5月

5月の伝統のモチーフは、春と初夏の意匠が同居しておりますね。
卯の花

季語は夏です。
白と緑の練り切り生地で、こしあんを芯にして、きんとんに作る。
平安の十二単の重ねの色目でも、表白・裏緑なので、緑と白のきんとんや羊羹が、江戸時代から、「卯の花重ね」「卯の花垣」などの銘の上菓子が作られています。

かきつばた

「唐衣(からころも)」
求肥の衣を折りたたんで、カキツバタの形をかたどったもの。
在原業平の『唐衣、きつつなれにし、つましあれば、はるばるきつる、旅をしぞ思』の区切りことの頭文字をとると、か・き・つ・は・た、となるので、カキツバタの花は唐衣なのです。
虎屋の唐衣は、紫と緑に染め分けた饅頭です。

つつじ

江戸時代からのデザインで、「岩つつじ」「岩根のつつじ」の菓銘があります。
出典は古今和歌集の『思いいづるときはの山の岩つづじ言わねばこそあれ恋しきものを』。
言わねば、という言葉を導き出す、情熱の花として、つつじが見られていたようです。
岩の間に鮮やかな色で咲く、つつじに恋の思いを寄せたのでしょう。
緑のきんとん生地、あるいはこなし生地に、紅のそぼろで花をさかせた造形が多いです。

青葉

「落とし文(おとしぶみ)」は、ケヤキなどの木の下に落ちている、丸まった葉のことです。虫の幼虫が丸めて巣にしています。
和菓子としては、餡玉を俵型に丸めたものを、緑色の練りきり生地で巻いて作るものです。
白い生地を露の粒に見立てておくこともあります。
別名を「よそえ文」「時鳥(ほととぎす)の落とし文」とも言います。

藤には、花房が多いことから、子孫繁栄の意味があります。歌舞伎の藤娘も祝儀の踊りなのです。
淡雪寒と紫色の羊羹を合わせて、藤の花の色を表し、小豆を花に見立てて散らしたお菓子があります。
白と紫のそぼろのきんとんで藤を表したものもあります。
菓銘としては、「白藤」「藤波」「藤棚」「花藤」等があるのです。
江戸時代から知られるお菓子の形として、新粉餅をひねったものに、小豆やササゲをつけて、藤の花を表した、「藤の花」は、秀逸な形です。

牡丹(ぼたん)

晩春から夏にかけての意匠です。季語は夏です。
菓子銘としては、「富貴草」「名取草」があります。
なお、真夏のデザインとして、「水牡丹」があります。
白あんを赤く染めたあんこを、葛餅で包んだもので、涼しげなお菓子です。

6月

6月のモチーフである、青梅とアジサイは、とてもきれいなデザインです。

青梅

青梅は、6月になり始めます。
青い実から漂う、さわやかな梅の香りは、初夏の訪れの象徴です。
青梅の甘露煮(かんろに)。
青梅を桃山で包んだもの。
青梅を錦玉羹(きんぎょくかん)で包んだもの。
青梅を葛切りに混ぜたもの。
求肥やういろう生地を薄緑に染めて、白あんを包んだもの。

アジサイ

白あんの芯を、青や紫の錦玉羹のさいの目切りでくるんで、アジサイをかたどったもの。
その表面に、淡雪寒をかけて、雨の中のアジサイを表したもの。
小見出し:雨
もちろん、春の「春雨」や秋の「時雨(しぐれ)」などの菓子銘はあります。
しかし、和菓子の世界の五月雨(さみだれ)は、梅雨の別名です。五月の字を入れて、イメージを軽やかにしているのです。三段の竿物として、紅・黄・紅、白・黄・白の三色ずつで表したものもあります。

7月

七夕は、現代の感覚では夏ですが、古典の世界では秋の行事になります。

露は、秋の季語ですが、和菓子の世界では、初夏から夏にかけて作られます。
緑のあんを葛で包んで、茶巾絞りにすると、それだけで、露のしずくのきらめきを表せます。
笹でくるんで、「笹の露」という菓子銘があります。
緑色のきんとんのそぼろに、錦玉羹をさいの目に切ったものを露に見立てて散らすことも。

桔梗

季語は秋です。
七夕も、季語は秋なのです。
桔梗は、朝顔のことだという説もあるためか、桔梗は七夕とかかわりのある花です。
旧暦の七夕には、近衛家が宮中で、扇に秋の七草を乗せて献上する風習がありました。
虎屋の「花扇」は、その習慣にのっとって、琥珀羹(こはくかん)の中に、星の形をした桔梗を浮かべたお菓子です。
また、桔梗を題材に、練りきりで花びらを美しくかたどった上菓子も多いです。
七夕は七月七日ですので、現代の感覚では夏ですが、旧暦ですと、新暦では1カ月以上遅くなることも多く、秋口の行事として、古典の世界では認識されています。

鮎(あゆ)

カステラ生地で求肥をつつんだ、「若鮎」や、「焼鮎」などを、青竹かごの入れ物に入れて。
錦玉羹の中に、ようかんで作った鮎を浮かべたもの。
鮎の姿を練りきりでこしらえたもの。

ほたる

ほたる(蛍)は、夏の季語です。
照明がある現代では、舞い飛ぶ蛍の光を、単に幻想的とみますが、古典の世界では、魂の光を表すものでした。
しかし、和菓子の世界では、おっとりした黄色で、蛍の光を表します。
黄色いあんを葛生地でつつんだ、葛餅や、こはく色の錦玉羹に大徳寺納豆を浮かべたお菓子などがあります。

8月

古典の世界では、秋の季語にあたるモチーフのお菓子が多いです。
実際に、長い期間、咲いているからという点と、季節の先取りの二つの意味がありますね。

朝顔

朝顔の季語は、秋ですが、和菓子の世界では夏に作ります。
練りきりで丸く花の形にして真ん中をへこませ、芯に錦玉羹、緑の羊羹で葉を作ってそえたもの。

竹筒入り水ようかん。
笹団子なども。
竹のことを笹とも呼んでいるのです。

すだれ

すだれとは、葦や竹ひごなどを編んで、夏の窓や戸から下げて、暑い日差しなどを遮ったものです。
お菓子としては、錦玉羹にくず粉を合わせた生地を、包丁で切ったものを丸めて、すだれの風情を表したものがあります。
菓子銘としては、「青すだれ」「玉すだれ」「夏すだれ」などがあります。

艶干錦玉羹(つやぼしきんぎょくかん)という寒天菓子の作り方があります。
錦玉羹をつくり、網の上で2~3日干して、表面に砂糖の結晶ができるようにしたものです。
表面は、じゃりっと砂糖が口の中で崩れて、氷の食感で、中は、少し硬い寒天が、ゼリーのような滑らかさです。
割り氷のような形にして干すと、切り口が鋭角的に仕上がって、本当に氷らしくなります。
氷は冬の季語ですが、「薄氷」は、真夏に氷の風情を楽しむお干菓子です。
ミントリキュールを溶かすと、さわやかですが、お砂糖だけの味も捨てがたいものです。
いっしょにいれるお酒や果汁などを変えると、一年中楽しめる和菓子ですね。

んとう