子どものころ、和菓子で、とても不思議な思いをしました。
ゆべしのことです。
父が、東北のスキー研修のお土産に買ってくる、和菓子のユベシは、とっても甘くて大好きでした。
ところが、ある日、もらった和菓子のユベシは、大人の味だから、無理かもといわれたのです。
悔しくて、一切れもらったら、ちょっと苦くてミカンの香りがしました。
このユベシは、私の知っている、甘くて柔らかいユベシではありませんでした。
どうしてこんなことが起こったのでしょうか。
実は、ユベシという和菓子には、まったく違う2種類があるのです。
このことをご存知でしたか。
違いは、柚子(ゆず)の果実を使ってあるか、使っていないかです。
今回は、柚子が使ってある和菓子のユベシと、使っていないほうを分けてご紹介させてください。

柚子のお菓子 柚餅子(ゆべし)

柚子というかんきつ類があります。
冬に、しぼり汁を鍋物に使います。
また、冬至の日には、半分にわったものをガーゼでくるんでお風呂に浮かべ、柚子湯を楽しみます。
柚子は、とても、体に良い食物です。
この柚子を丸ごと使ったのが、柚子ゆべしの元祖です。
最初に、柚子の効用についてみておきましょう。

珍味としての柚餅子

まず、最初に、元祖の薬味としての柚餅子の基本をおさえます。

珍味の柚餅子の作り方

・柚子の上部を切り取って、中身をくりぬき、柚子窯(ゆずがま)を作ります。
・味噌、ゴマやクルミを刻んだものと、少量の柚子のしぼり汁を火にかけて練ります。
・それを柚子窯に詰めて、ふたをして、一度蒸します。
・蒸しあがったら、和紙にくるみ、軒下につるし、しっかり乾燥させます。
 藁でくるむ場合もあります。干す期間は、およそ一カ月から半年です。
・薄く切って、酒の肴やお茶漬けの友などにして食べます。

健康食品としての柚子

・豊富なビタミンC…かんきつ類の中で、最も含有量が多い(主に果汁)です。
リモネン…ミカン類独特の香りを持つ物質。リラックス効果や、免疫力を高める効果があります。
クエン酸…酸っぱい味。カルシウムの吸収を助けます。
ペクチン…白い皮の部分に含まれる、水溶性の食物繊維。柚餅子では丸ごと取れます。
この珍味としての柚餅子が、携帯に便利な健康食であることから、武士が戦に兵糧(ひょうろう・野戦での食べ物)として、持って行ったのです。
そこから、もち米で作った上新粉を入れたり、そば粉をまぜたり、甘みに工夫を凝らしたりして、今のお菓子としての柚餅子が出来上がりました。

現代の薬味ゆべし

現代でも作られている、薬味系の柚餅子としては、次のようなものがあります。
たとえば、和歌山県の龍神温泉では、今も、鎌倉の武将が腰に下げていったという、素朴な柚餅子を製造しています。(龍神味噌.com)
また、奈良県の十津川村でも、「ゆうべし」と呼んだ柚餅子を、そば粉やもち米粉、鰹節、味噌などを使って作っています。藁でくくって干す姿にも、とても風情があります。
お酒の肴として、お茶漬けのおともとして食べられています。(十津川深瀬 十津川ゆべし)
現在の浜松市天竜区や、南信州(現長野県)、東三河(現愛知県)、遠州(現静岡県)でも作られています。
(柴垣ゆず園 ゆべし)(泰阜村柚餅子生産組合 五百石ゆべし)

お菓子の柚餅子

江戸時代、19世紀になってからですが、備中松山藩の板倉のお殿様に献上した、献上菓子としての柚餅子があります。

柚子窯を使わないゆべし

高梁市で今も作られている、こちらの柚餅子は、柚子窯をつかわないお菓子です。
二重餅のような形や、結んだ形などがあり、求肥のような食感です。
このように、柚子窯を使っていない、平たい柚餅子を平柚とも呼びます。
(高梁市 土屋天任堂または遠州屋 ゆべし)
また、同じく19世紀(慶応年間)には、愛媛県の西条市でも、棒柚餅子が作られました。今も、「星加のゆべし」が作り続けられています。

柚子窯を使うゆべし

ほかに、珍味の柚餅子の形を保った和菓子としては、岡山県の矢掛町の丸ゆべしと金沢ゆべしがあります。
岡山のゆべしは、柚子窯の中に、羊羹を詰めたものです。寒天を使った羊羹は、江戸時代後期につくられましたから、こちらの丸ゆべしは、モダンなお菓子だったのでしょう。天璋院篤姫も好んで食べたそうです。
一方の、加賀のゆべしは、珍味や兵糧のゆべしから派生したものです。
砂糖や、もち米をふんだんに使っています。
加賀藩の御用菓子を復元した、「柚雲(ゆううん)という和菓子があります。
(柚餅子総本家中浦屋 輪島市)
このような、お菓子の丸ゆべしは、輪島の薬の行商人が、全国にお土産として広めたという説があります。
ところで、加賀藩では、17世紀に、産業の振興のため、藩が主導して和菓子の生産を奨励しました。
たとえば、その時にできたのが、有名な落雁の長生殿です。
しかし、そこには、加賀藩の隠された意図があったという見方もあります。
落雁にしろ、柚餅子にしろ、いったん戦になれば、軍需物資つまり、兵糧として使えるものだったからです。
徳川幕府は、明治維新まで続きましたが、このような歴史を知るのも楽しいものではないでしょうか。
さて、次には、柚子を全く使わない系統のユベシをご紹介します。

東北・北関東のゆべし

代表的な、仙台、山形と福島のゆべしをご紹介します。

仙台ゆべし

仙台のゆべしは、ゴマを刻み込んだものと、クルミを入れたものがあります。ゴマも、クルミも、精進料理にも使われている、貴重な脂肪やたんぱく質を摂取できる食物でした。基本の味付けは、醤油でした。甘しょっぱい味に仕上がっています。
ひろせの「笹ゆべし」、味佳嵯の「ゆべし」、甘泉堂「くるみゆべし」など。

山形ゆべし

山形市の郷土食である、くるみゆべしは、農家で端午の節句に作ったものです。
そのほかにも、人が集まる時に、お茶うけとしてつくりました。
クルミは、農村の人々にとっては、貴重なたんぱく質と脂肪分を補給する、晴れの食べ物だったのです。
現在は、砂糖をきかせた甘い味に仕上がっています。
ゴマも入ることがあります。
杵屋本店「山形ゆべし」平形、作和庄「伝承ゆべし」三角形、紬屋「笹ゆべし」丸型

福島ゆべし

上新粉と餅粉に、しょうゆと米飴を入れて練る、もちもちの触感が決め手です。さらに、三角形や花形につまんだ生地の中に、こしあんを入れて蒸し上げます。
かんのや「家伝ゆべし」三角形をひねった形 あんこ入り・けしの実

ゆべしに欠かせないクルミ

クルミは、次のような作用を持っています。
・滋養強壮作用(タンパク質、脂肪分)
・疲労回復作用(ビタミンB1)
・寝つきをよくする(トリプトファン)
山形の郷土食の歴史に見られるように、クルミを入れたゆべしは、小食だった昔の日本人には、カロリーがあるだけではなく、とても体に良い食べ物でした。
次に、ご家庭で作れる、手軽なクルミゆべしのレシピをお伝えしましょう。

クルミゆべしのレシピ

本当に、楽しく簡単に作ることができて、美味しいです。
材料 白玉粉(1袋:200g)  白砂糖:100g(黒砂糖や三温糖でもよい)
片栗粉:大さじ2  味噌:大さじ2  生くるみ:200g  水:200㏄
用意するもの:耐熱ボウル、しゃもじ、パッド、ラップ
① 生くるみをオーブントースターで2~3分香ばしく焼き、粗く刻む。
② 耐熱ボウルに、白玉粉と砂糖と味噌を入れて、よくまぜあわせる。
③ ラップをかけ、電子レンジで700W約4分間、加熱する。
④ ③にくるみを加え、ラップをして今度は5分間、加熱し、しゃもじでよく混ぜる。
⑤ 片栗粉を敷いたパッドに伸ばし、粗熱が取れたら、食べやすい大きさに切る。

さて、今回は、ユベシという名前で呼ばれる、まったく別の和菓子をご紹介しました。
ユベシだけが特別のように説明してしまいましたが、同じ名前で呼ばれるお菓子が、違うレシピを持っているのは、決して珍しくありません。
東西に南北に広がる日本列島では、各地に独特の食文化が花開いています。
和菓子も、その例外ではないのです。